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2024.05.23

[インタビュー]日本のロボットアニメやゲームに影響を受けた『Mecha Force -メカフォース-』の魅力を元NetEaseの開発者ソン・イハン氏が語りつくす

MyDearestはVRロボットアクション『Mecha Force -メカフォース-(以下、『Mecha Force』)』をMeta Quest 2|3向けに2024年にリリース予定だ。ちょっとレトロな熱血ロボットアニメをVRという最新技術で再現するギャップに惹かれた方も多いことだろう。MyDearestは過去にVRゲーム『ALTDEUS: Beyond Chronos』でロボットものをやっているが、アルトデウスはアドベンチャー・ビジュアルノベルであり、ゼロ年代のセカイ系でもあった。

そこで、MyDearestは『Mecha Force』の魅力を掘り下げるべく、本作の開発元である中国のMing Studioの代表ソン・イハン氏へのインタビューを実施した。90年代風のスーパーロボット系アクションという異色のVRゲームを作るソン氏が幼少期にどんな影響を受けたのか、いかにしてVRゲームを作るに至ったかをうかがい知る手助けになればと思う。

また、『Mecha Force』をプレイヤーと共に「世界最高のロボットゲーム」にするべく、クラウドファンディングも企画しており、その思いも合わせてお伝えする。

世界最高のロボットゲーム『Mecha Force -メカフォース-』を作りたい!

『Mecha Force』クラウドファンディングページはこちら

https://camp-fire.jp/projects/view/760435

聞き手/文章:渋谷宣亮(MyDearest, ゲームデザイナー)

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Ming Studios代表のソン・イハン氏。2024年4月某日にMyDearestオフィスを訪問してくれた。

Ming Studioを立ち上げるまで

――ソンさんは元々NetEaseで働いていたと伺いましたが、具体的な経歴を教えていただけますでしょうか?

ソン:Ming Studioは友人らと4人で立ち上げたスタジオで、もともとはNetEase社内のチームでした。このチームは2016年からVRの開発をしていて、同年にVRゲーム『Twilight Pioneers』をGoogleのDaydream向けにリリースしました。このチームは2016年から2017年のVR元年の時期は引き続きARやVRを研究しつづけていましたが、それ以降はスマホのゲームとVRゲームの開発を並行していました。

『Twilight Pioneers』公式Facebookより

NetEase時代のMing Studioはモバイルゲームの実績としてスマホ版『ポケモンクエスト』を手がけています。Ming Studioのメンバーは熱心なポケモンファンでDS・3DSでポケモンバトルを楽しんでいたため、『ポケモンクエスト』を機会にMing Studioはモバイルゲーム開発を始めました。その後も日本の企業から様々なお話があり、日本のIP(※知的財産の意味、ゲームにおいては独自の作品やシリーズを示す)の作り方を学びました。

NetEaseからの独立のきっかけは2020年にOculus Quest 2がリリースされたときのことです。ふだん作っているモバイルゲームとは別に、自分たちオリジナルの本格的なゲームを作りたくなったんです。特にテレビゲーム・買い切りゲームで自分たちのIPが欲しかったので、そういった思いでファンドから出資を受けて4人でNetEaseから独立し、現在のMing Studioを設立しました。

――現在のチームの規模はどれくらいですか?

ソン:最初は4人でしたが、今は16人ですね。『Mecha Force』を作りながら新たなファンドにも接触して、2年前にもう一度融資を受けました。設立当初の4人はプログラマーとプランナーの集まりだったので、開発初期はアートの品質が求めているものに追いついていなかったんです。そのため、融資を受けた直後に3DCGができるアート系のメンバーを増やしました。

――VRの事業者がファンドから融資を受けるのは相当難易度が高いと思うのですが、どうやって説得したんでしょうか?

ソン:情熱です!僕ら創設者4人ほどのゲーム好きは、中国だとなかなかいなかったんですよ。ただただ情熱でファンドを説得しました。とはいえ、2023年に世界の経済状況がまた下がったじゃないですか。流石に情熱だけではどうにかならなくなってきましたが、ゲームはそろそろリリースです。今度は自分たちで作ったゲームで収益を出したいですね。

『Mecha Force』開発のきっかけ

ソン:最初のデモは2年前の2022年に作っていて、そのときにちょうどMyDearestから声をかけられましたね。このゲームは個人的な趣味で日本的なゲームにしました。販売を計画したときはアメリカとヨーロッパと日本向けだったけど、実際デモをリリースしたら日本からの反応が一番良かったんです。そのため、日本市場を一番大事にして開発を進めています。東京ゲームショウやBitSummitといったゲーム展示イベントで日本のプレイヤーのリアクションや返事を貰いたいんです。非常に熱心なアドバイスで、ゲームを改善するための参考になります。

ファミ通.comでのプレスリリースで1000リツイート超えと50万近いインプレッションを達成したことで、みんな応援してくれていることを実感して本当に感動しました。「こういうゲームをずっと待っていた」と言われたことで、自分たちも「こういうロボットが題材のVRゲームがあったらいいのに」という思いから「自分たちで作ろう」と意識を切り替えました。ちょうどMyDearestが2018年に『東京クロノス』のクラウドファンディングをしたときと状況が似ていると思います。

ファミ通.comでのニュースツイート

ソン:VRロボットゲームの先行事例としてはアメリカ産のものが(※『Vox Machinae』、『Iron Rebelion』など)もあったのですが、それらは挙動が重いリアル系です。日本アニメの中二病的な、男の子の夢があふれ出るものではありませんでした。日本アニメっぽいロボを取り入れたVRゲームは『ALTDEUS: Beyond Chronos』がありましたけど、あれはビジュアルノベルであってアクションがメインではありませんでしたからね。

――自分たちが「こういったものを作りたい」という気持ちとは裏腹に、「これは売れるのだろうか」という不安はありませんでしたか?

ソン:不安でしたね。VRにこういうゲームはなかなかなかったので。社運を賭けているから、これが失敗したらどこかの会社でバイトをしなくてはいけない(笑)それだけはしたくないなあと。

一同:(笑)

中国でのVRの開発

――中国でVRゲームを作るとなると、相談する相手や頼れる情報といったサポートが日本よりも乏しいと思うのですが、VRゲーム開発で困ったときはどのように解決していますか?

ソン:ほぼ解決できない状況でしたね。かなり苦労しましたよ。ネットでVR開発のチュートリアルを探したくてもなかなか見つからないじゃないですか。Unityを使ったQuest 2の開発でバグがいっぱいありましたし、どのバグも解決する方法はすぐに見つからなかったです。徹夜して(キーボードを叩く素振りをしながら)「どういうこと!?」っていろんな困難を克服したら、どうにかゲームの形になっていきました。それらの経験を活かしてUnityでVRゲームを作る本ぐらいは出したいですね。たぶん中国でウケるかもしれない。

VRらしいコックピットのインタラクション

――『Mecha Force』をプレイしていて、ライトセーバーやコックピットのスロットルなど「プレイヤーが手で握るインタラクション」にこだわっている印象を受けました。インタラクションの作りこみに関する開発エピソードを聞きたいです。

ソン:やっぱり今の時点では手で操作するインタラクションがぜんぜん足りないですね。正直な話、あれは結構な開発費がかかります。いろんな3Dモデルが必要じゃないですか。手ごたえの調整も時間がかかります。ゲームを正式にリリースする前にいろんなインタラクションを作る予定なんですけど、今はプレイヤーのサイドにあるレバーを実装しました。

『Mecha Force』のコックピット視点。本インタビューに掲載されているスクリーンショットはすべてMeta Quest 2実機のゲームプレイを撮影したものだ。

やっぱり『ゲッターロボ』とか『天元突破グレンラガン』みたいなスーパーロボットは両手に握るレバーがないとロボット的だと思わないですよね。『マジンガーZ』も基本は根性で動かすロボットじゃないですか。でも、アニメの中でブレストファイアとかロケットパンチを出すときはレバーぐらい使いますよね。合体とかドッキングとか、ああいったものがロボットのロマンです。実際は使わなくてもいいんですけど、ロマンのためにはそれがないといけない。これからもうちょっと増やしたいですね。

『ガオガイガー』みたいにガラスを割ってボタンを押す機能とか、『天元突破グレンラガン』がドリル状の鍵を回してエネルギーを充填するとか、そういうのもやりたい。レバーの遊び方をもうちょっと増やしてもよいかなと思います。例えば、天井にある吊りレバーを引いたらコクピットの下が変形して、新しいレバーが出てくるとか。出撃のときは両腕のレバーを引いてから突き出して、大技を使いたいときはもう一度逆に引くとか。いろんなインタラクションが考えられます。

一人称視点の苦労

――一般論として、アニメそのものやアニメらしいものは大なり小なりキャラクターという(ユーザーにとっての)他者を魅力的に見せることが焦点となります。しかしVRは基本的に一人称視点なわけですから、ロボットアニメらしい表現をプレイヤーにどう伝えるかに困りませんか?

ソン:大変でしたよ、苦労しましたよ!例えばスーパーロボットだと光の翼が欲しいじゃないですか。でも、一人称視点だと翼が見えなくなっちゃうので、アーケードゲームの『機動戦士ガンダム 戦場の絆』を参考にしました。戦場の絆に出てくるユニコーンガンダムも一人称視点だから変身のシーンが見れないですけど、ゲームのUIにあるアイコンで翼が生えていることを視覚的に伝えているし、翼を出すと移動スピードが速くなることでも翼が生えていることを伝えています。VRは工夫をしないとユーザーに意図が伝わらないですが、克服したら倍以上に楽しくなるので、やりがいがあります。

――『Mecha Force』に登場するヒロインについて教えてください。

ソン:ヒロインについては作りこみたいです。ゲームにもっと参加してほしいと思っています。まだ制作途中ですが、戦闘の手助けになれるようにリリース前にヒロインについて完璧に実装できるように頑張っています。

実は開発段階によってヒロインの衣装が異なるのは、この記事だけの秘密。

――最新のビルドではMod.io(※ユーザーの自作データをゲームに適用できるMOD共有サービス)でのヒロインの3Dモデル差し替えに対応していましたが、あれはどういう風に使っているんでしょうか?

ソン:VRは一人称視点なのでプレイヤー自身がロボットを操縦するのが基本となります。MODがあればMecha Forceオリジナル以外のいろんなヒロインと一緒に乗ることができて、いろんなロボットに変更できるからいいんじゃないかなと考えたため、Mod.ioに対応しました。自分で作ったキャラモデルをゲーム内に入れたりと、きっと多くのプレイヤーが求めることだと思うのでMOD対応は入れないといけないと思っています。

開発初期で参考にしたもの

――Mecha Forceの開発初期にとっかかりにしたゲームはどんなものがありましたか?

ソン:最初はやっぱりVRゲームでしたね。Meta Questストアが出来た直後は300から400ぐらいのVRゲームがあったんですけど、それをほぼ全部プレイしました。そのあとはVRゲームよりも昔のアニメや『スーパーロボット大戦』が参考になりました。例えば、『Mecha Force』のオープニングでは柏倉さん(※3DCGアニメ『楽園崩壊』で3DCG監督を務めたのち、MyDearestで『東京クロノス』と『ALTDEUS: Beyond Chronos』のディレクターを担当)に「どうすればオープニングで迫力をもっと出せるのか」を相談させていただきました。あれはアニメ的なテクニックでしたね。

Switchでの発売も決定している『東京クロノス』『ALTDEUS: Beyond Chronos』

アニメのテクニックを一番活用しているゲームは『スーパーロボット大戦』でした。つい先月(2024年3月)の話ですけど、Ming Studioの全社員で徹夜で『スーパーロボット大戦OG』をプレイしていたんですよ。カットシーンの迫力の表現の仕方を学びました。実際に学んだら、今月のビルドに入れた新しい爪の武器が前の武器とは手ごたえが大違いだったんです。やっぱり良いものを参考にしたおかげで、すごく勉強になりました。

――開発初期こそVRゲームを研究したものの、それ以降はVRゲームの直近のトレンドよりもアニメからのインスピレーションを大事にしているんですね。

ソン:やっぱり開発の最初はVRゲームらしく、斬ることと撃つことに専念しました。ゲームの開発初期ですから、他のVRゲームをプレイして参考にして実装したらゲームの操作の感触がよくなりますよね。プロトタイプの初期段階が作り終わって、その次に60点から80点ぐらいに高めるには、作り手がインプットをアニメなり映画なりゲーム以外のメディアも参考にしなくちゃいけないんです。

『Mecha Force』のロボットは初期装備がライトセーバーとミサイルになっているが、カスタマイズでアイロンフィストとロケットパンチの組み合わせも可能だ。

ゲームの進行とプレイヤーの習熟

――今回のビルドだとゲームの進行がローグライト形式になっていましたが、どういった理由があるのでしょうか?

※インタビュアー注

この記事ではローグライトを「プレイヤーがゲームオーバーになったときに進行度がリセットされてはじめからになるが、プレイヤーのリソース(資金)や永続的な成長(アップグレード)は引き継がれる」という意味で用いている。

ソン:元々ローグライトというジャンルは中小企業の開発規模に向いています。開発者の人数やリソースが少なくてもできるだけプレイヤーに楽しんでもらいたいという気持ちで、ゲームの進行をローグライトにすることを決めました。ローグライトだとアップグレードとかいろんなものがランダムに出てきて、新鮮さや驚きが保たれるから長くプレイできます。

ローグライトにしたもう一つの理由は「できる限りシステムを複雑にしたい」ということです。アクションゲームはいろんなジャンルがあるじゃないですか。最近だと『ダークソウル』に『SEKIRO』が人気ですが、昔の方が難しかったです。『NINJA GAIDEN』の時期のアクションゲームは操作方法やシステムが格闘ゲームに近かったですね。「左スティックを回して攻撃ボタンを押したら大技が出る」といった格ゲーのコマンドようなシステムがありました。そういったアクションゲームが進化して、ロボット系のアクションゲームにおいては『機動戦士ガンダム バーサス』シリーズがあります。それが自分の中のロボット系アクションゲームの頂点です。アレも格闘ゲームに近いですし、システムも難しいですよ。

敵とのバトルでは派手なエフェクトと剣戟戦で大盛り上がり間違いなし!

『Mecha Force』は難易度は高めでシステムも複雑にしてあります。ゲームを始めたばかりのプレイヤーは大変だと思いますけど、慣れれば遊びつつ面白くなる感触を目指しています。今は『Mecha Force』の中にライトセーバーでガードしたりとか、パリィとは別にパーフェクトパリィがあったりします。普通にパリィするときはパリィした敵の弾がランダムな方向に跳ね返って飛んでいくけど、強く振るとそのまま敵に跳ね返ってダメージを与えられるパーフェクトパリィが発生します。強く振ってパーフェクトパリィをする方が攻略上は有利である、ということを覚えてほしいわけです。

そういった細かいバトルのシステムが入っているけれど、プレイヤーたちが最初にそれらの全容を知ることはない。でも、こなしていけばゲームの後半では敵も強くなるし、プレイヤーもゲームについてもっと詳しくなります。そういったときにゲーマーは自分自身が強くなった気分になります。そういったことがアクションゲームとしてはすごくいい体験だなと思っていて、できるかぎり複雑にしたいんです。

――段階的に丁寧に教えるよりは、ゲームに込めたシステムをプレイヤーに発見した上で上達していってほしいということですね。

ソン:一方で、すごく詳しいチュートリアルを作ったバージョンもありますね。今も「複雑なシステムとそれの理解」と「理解しやすいチュートリアル」の両立に悩んでいて、毎月それらを改善するように頑張っています。一定のチュートリアルは必要だと思いますよ!そのチュートリアルをどういう風に面白くゲームの操作方法を教えるか、プレイヤーに教えるのはなかなか難しいんです。リリース前にプレイヤーに完璧なチュートリアルを提供できるよう頑張ります。

VRのテストプレイと苦労話

――VRゲームのテストプレイはVR経験者からVR初心者までさまざまな人で検証する必要がありますが、テストプレイで苦労したことはありますか?

ソン:ウチのスタジオにはVR経験の少ない美術系の女性社員がいまして、彼女たちのアドバイスは大事だと思っています。社員の奥さんとかもゲームの経験がほぼないので、彼女たちにお願いしてVRヘッドセットをつけて『Mecha Force』をプレイしてもらって「VR酔いはありますか?」とか「操作できますか?」といった貴重なフィードバックを貰いました。リリースするときは初心者も経験者も両方が楽しめるようなゲームを作りたいと思っています。

――VR初心者の人から貰ったアドバイスで具体的な例を教えてください。

ソン:チュートリアルの最初の操作説明で、プレイヤーの目の前に広がる空間に目標地点を示すマーカーがあったら、そこに行けばいいってVR経験者やゲーマーなら分かるじゃないですか。だけど初心者にとっては、広い空間を勝手にあちこち行ってしまって、そうしたら「あれ、さっきのマーカーはどこ?」と道に迷ってしまうんですよね。その時点ではプレイヤーがカメラを左右に旋回する方法がまだわからなくて、一度でも逆方向を向いてしまうと元の方向に戻ることができないんです。そういったフィードバックは初心者からしか貰えないですし、今となってはどこの方向を向いていてもマーカーが見えて常に目標地点を教えてくれるように改善しました。

ゲーマーあるあるの慣習であっても、初心者に伝えるための工夫と確認は欠かせません。

それとバトルそのものが難しいじゃないですか。バトル中に敵を見失うことがあって、それにも敵の位置を示すレーダーが必要ですよね。そういった情報もプレイヤーに知らせないといけないですし、特にこういったガイドが不親切だと初心者には辛いと思っています。そのため、初心者から色々とアドバイスを貰いました。

他にもいっぱいありましたね。『Mecha Force』のライトセーバーはプレイヤーがMeta Quest Controllerのグリップを握りながらコントローラを振ると出てくる仕様なんです。この仕様は面白いけど初心者は使い方がまったく分からなくて、それをどう理解させるのかにいっぱい工夫しました。最初はチュートリアルのUIを視界の下の方(※プレイヤーの胸元ぐらい)に置いたんですけど、そうしたら「まったく見えない」というフィードバックを貰いましたよ。その後に視界の上の方(※プレイヤーのおでこぐらいの高さ)に置いたんですけど、そうしたら「邪魔」って言われて「じゃあどこに置けばいいの!?」ってなったんです。まあ、いろいろ考えないといけないことがわかりました。

バトルシステムとロボゲーの話

――バトルシステムで影響を受けたゲームはありますか?『Mecha Force』のバトルはパリィとカウンターを重視していますよね。

ソン:『Mecha Force』のパリィは『鬼武者』を参考にしました。僕の記憶の中で、もっとも早くパリィやカウンターを実装したゲームのひとつが『鬼武者』のカウンターシステム「一閃」です。今ではアクションゲームはみんなパリィを使うようになりましたし、ゲーム開発者はよく『SEKIRO』を参考にしたり寄せたりしますよね。中国の開発者たちもよく作ります。

――ここ数年は『SEKIRO』のフォロワーがよく注目されますが、『鬼武者』が由来というのは珍しいですね!

ソンさん:最初にパリィを作ろうとしたときは『鬼武者』を意識していたんですけど、実際作ってみると『SEKIRO』のような調整にならないとプレイヤーが認めてくれない感じもあります。そのため、自分たちも『SEKIRO』も参考にしました。

他にも参考になった作品としては、『東京クロノス』のクラファンをきっかけに「ゲームを一言で表すにはどうすればいいか」を考えるようになりました。VRゲームは一言で言い表せるものが中々ないじゃないですか。今自分たちが作っているのはローグライトのアクションゲームで、もうちょっと考えたら「高速アクションゲーム」にまとまったんです。『ガンダムバーサス』も高速アクションでした。こういうVRゲームは今までになかったかもしれないけど、「高速アクション」を軸に進めていきたいですね。



あとはPS2に『A.C.E.(Another Century Episode)』っていう好きなゲームがあります。これはMyDearestの柏倉さんも気に入ってたゲームです。『A.C.E.』はフロムソフトウェアさんが作ったスーパーロボット系のゲームで、ものすごいゲームでした。いろんなスーパーロボット、『真ゲッターロボ』とか、『ガンダム』とか、『マクロス』とかのクロスオーバーもありました。個人的に一番好きなのは『エウレカセブン』のニルヴァーシュで、『A.C.E.』のエピソード3に登場していましたね。ニルヴァーシュはサーフィンに基づいて作られたロボットで、空を飛んでいてスケートボードに乗って敵を切るっていう戦い方をしていました。自分は中学のときに「A.C.E.」シリーズを遊んでて「あれはよかった」と思っています。すごいスピードで走っていったらパーンと切るのが、あのゲーム以来なかった体験でした。『Mecha Force』を作り始めたときに、もう一回『A.C.E.』の『エウレカセブン』機体のアクションのような体験がしたかったし、それを狙って作っています。

PS2『Another Century's Episode 3 THE FINAL』(フロム・ソフトウェア

『Mecha Force』のバトルにもダッシュがありますよね。ライトセーバーでもパンチでも爪でもドリルでも、ぜんぶダッシュしながら攻撃できるようになっています。これは『A.C.E.』の『エウレカセブン』機体のアクションを再現したかったんです。今の『Mecha Force』にアイアンフィストのパンチがあったじゃないですか。自分の拳を目の前に置いておいて、そのままダッシュしてパンチすると相手をぶっ飛ばすことができます。

――ダッシュしながら攻撃すると、攻撃力も上がる?

ソン:上がりますね。これもさっき言っていたシステムの細かいところです。接近戦のときに普通のスピードのパンチをするのと、思いっきり速度をつけたパンチをするのではダメージが違うんですよ。ダメージだけではなく表示やアニメーションも違います。敵のやられる吹っ飛び具合がわかりやすい違いですね。こういう細かいところもこだわっているんです。何時間もプレイしないと気が付かないシステムではありますが、いろいろ作りました。

――VRは細かいインタラクションの積み重ねで没入感が増すので、素晴らしいことだと思います。

ソン:ほかに参考になるゲームとしてはPS2の『装甲騎兵ボトムズ』があって、ロボットから降りれるんです。『ボトムズ』のロボットはサイズが4mぐらいで小さいですよね。このため、人間のままでもわずかにダメージを与えることができる、ロボット相手に生身で戦うこともゲームプレイのひとつでした。ああいったゲームにも憧れて『Mecha Force』のコックピットを作りました。最初は50〜100mぐらいのロボットに乗っていて、戦ってコックピットから降りる時、さっき乗っていた巨大ロボットたちが戦い立っているシーンを見る時は、迫力があります。

子供の頃に『ジャイアントロボ』のゲームもありました。ジャイアントロボは30mぐらいで、少年とジャイアントロボが協力して敵と戦うんです。このゲームも『Mecha Force』の大事なインスピレーションのひとつです。

PS2『ジャイアント・ロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日~』(D3 PUBLISHER

――非コックピットのパイロット視点のゲームパートもあると。

ソン:リリースするときには何とか実装したいと思います!

――アルトデウスでも巨人同士の戦いはありましたよね。

ソン:アレは良かったですね!ラジオでも柏倉さんと話しましたけど、巨人を見る時の迫力がすごかったです。「『エヴァンゲリオン』のエンディングの綾波レイみたいな感じで~」っていうと柏倉さんから「あっ、そうでしたっけ!?」と言われましたよ。作るときはそのつもりがなかったけど、結局のところ自分の好きなものがゲームに表れてしまうものですね。

レンタルビデオのアニメに囲まれて過ごした少年時代

――いろんなインタビューを見ていると、ソンさんが『真・ゲッターロボ』『イデオン』『トップをねらえ!』とか、なかなか今の若い人が言わないようなタイトルが上がります。『ガンダム』とか『エヴァ』はよく聞くんですけど、そういった古いアニメが『Mecha Force』に活かされているんでしょうか。

ソン:もちろんです。子供の頃は新しいアニメよりも古いアニメの方が好きでした。ストーリーのひらめきは『トップをねらえ!』とかいろんな庵野監督のものを吸収して自分のストーリーにも入れたいなと思っていて、けっこう実際にいろんな要素を入れたり、またアニメを見なおしたりしながらストーリーを書いてます。

――『イデオン』からはどういった点に影響を受けたんですか?

ソン:『イデオン』はやっぱり設定ですね。たとえば『Mecha Force』には「麒麟」という名前のロボットがいます。麒麟は中国のいにしえの時代の神獣であり、『Mecha Force』の設定でもいにしえの神様になっています。『イデオン』もこういう設定ですよね。

伝説巨神イデオン(画像はAmazon.co.jp: 「伝説巨神イデオン」劇場版 Blu-ray(接触篇、発動篇)より)

『トップをねらえ!』の最後の「おかえり」のシーンは、本当に感動的でした。3~4人の女の子たちが、数え切れないほどの宇宙怪獣と戦い、人類のために何万年もの間を宇宙に留まった後、地球に帰還した時のシーンは、人間の感謝や意志を感じさせる物語が現代まで続いていることを示しており、とても感動しました。特に、今のような戦争が多くてコロナウイルスの影響や経済状況が悪化する時代には、このようなストーリーが特に必要だと感じます。

トップをねらえ!(画像はAmazon.co.jp: トップをねらえ! Blu-ray BOX Standard Editionより)

『真ゲッターロボ 世界最後の日』への愛

――『トップをねらえ!』は庵野さんの原点ですもんね。それと、ソンさんが『真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日』のOVAが一番好きだとおっしゃっていましたが、どの辺が好きなのでしょうか?

ソン:「真ゲッターロボ 世界最後の日」の雰囲気は、まさにタイトル通りの世界の終わりでした。わずかに残された人類が、圧倒的な宇宙怪獣との戦いに挑んでいる中、ゲッターは最後の希望のように思えました。あの絶望的な状況からも新しい希望が見えてくる展開は、『Mecha Force』のストーリーにも影響を与えました。

絶体絶命の時、最後のスーパーロボットが遺跡から掘り起こされるシーンや、エンディングは本当に圧巻でした。ゲッター線は進化の意味を持ち、善悪を超越した存在であり、人間の魂もゲッター線の導きによって進化を続けるという点が印象的です。最終的にゲッターエンペラーは宇宙そのものと一体化する。子供の頃に感じたその迫力は100%でした。最後に斧で木星を切り裂くシーンなど、宇宙の壮大さを感じさせるシーンは本当に素晴らしかったと思います。

真ゲッターロボ 世界最後の日(画像はAmazon.co.jp:真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日 Blu-ray BOXより)

日本アニメで覚えた日本語

――ソンさんが日本のアニメを見るきっかけはなんだったんですか?

ソン:本当は中国だと『真ゲッターロボ』みたいなアニメは見られないですよ。『デジモン』とか『ポケモン』とかは放送してましたけど、ロボットアニメのものは放送してなくて。ただ、おじいちゃんの家はDVDのレンタル屋をやっていました。あまり儲かっていませんでしたが、ロボットアニメは見放題でした。

それから自分は小学生になるとゲームを始めたんですね。最初は『スパロボ』とか『ガンダム』とか全部日本語でプレイして、まあ分からないじゃないですか。毎日やって聞きながら遊びながら、中学になる頃にはなんとなく日本語が聞き取れるようにはなりました。そのときは、やっともっと古いアニメを見ることができるようになりました。『イデオン』は中国語だとまったく翻訳されていないので、日本語で見ました。

子供時の写真 (1).jpg

写真中央が少年時代のソン氏

ソン:その時にああいうアニメとか見たらプライドとかも湧いてきますよね。「もうテレビで流れている"まあまあ"のアニメはもう見たくない」みたいな。でも、クラスメイトはそういうテレビのアニメを見ているじゃないですか。それで、けっこう友達が少なくなりました。「これ見たことある?」って聞いたら「なにそれ」って言われますよ。それは今考えると当たり前のことなんですが、当時はさびしかったです。でも、それがきっかけでゲーム作りを始めたので、今考えると良かったなと思います。

最初に日本に来たときは不動産会社のインターンでした。不動産会社の40代から50代の先輩たちが最初のアニメの友達でした。会社の人に「ソンさんはいつもどんなアニメを見ていましたか?」と聞かれて『あしたのジョー』とか『巨人の星』って答えたら「僕ら(40~50代)の世代のアニメじゃないか!」って言われましたよ。素晴らしい子供時代を過ごしました。

最後に皆さんにメッセージ

皆さんこんにちは、『Mecha Force』プロデューサーのソンです。このインタビューをお読みいただき、ありがとうございます。メカフォースの裏話をお楽しみいただけたでしょうか?もし楽しんでいただけたなら、本当に嬉しいです!

僕が中学の時、あまり順調な少年時代を過ごせませんでした。学校からのプレッシャーが凄く大きくて、クラスメイト達との仲もあまり良くなかったです(今考えれば、多分それはゲームに没入しすぎて、全く人間関係を気にしなかった自分のせいだと思う(笑))。

でも、その時はちょうどゲーム業界のゴールデンエイジとも言える時期でした。大体2002年から2010年の頃、PS2やニンテンドーDSにPSPなど、山ほどのいいゲームが出てきました。あの時に毎日ゲームをやって、ロボットアニメを見て、楽しい日々を過ごしました。

あの時のゲームやアニメに感動させられて、毎日毎日、少しでもゲームやアニメの主人公みたいに何も恐れず、勇気が溢れる人間になれるようにと頑張りました。おかげで今では完璧な大人とは言えませんが、多くの人を助けることができ、性格も曲がっていません。

私には夢があります。少年時代に感じた感動やロマンが、今の時代には少なくなっているように感じます。それを見過ごすわけにはいきません。

そこで、『Mecha Force』という新しいゲームを開発しました。まだまだ雑だけど、僕が深く感じていた鋼の魂も、男(女もそうさ!ーー<英雄>ーーDOA)のロマンも、できる限り全部このゲームに入れました。しかし、現実は厳しく、開発を始めて2年が経つ現在も、私たちの努力はまだ足りないと感じています。僕らのしていることは銀行やファンドに好かれないものですが、『Mecha Force』を作り始めたこの二年間、同じロマンを感じてるプレイヤーたちだけが僕らの支えでした。

ゲームが正式に発売されるまであと半年、資金も人手も足りない状況ですが、僕らは『Mecha Force』をロボットロマンに溢れる作品にしたいんです。何処からも助けが来ないなら、製作者とプレイヤーだけで素晴らしいことを成し遂げようと思います!そんな想いから、『Mecha Force』のクラウドファンディング企画を始めました!今こそプレイヤーたちと一緒にこの夢を実現させたいです!頼む!皆の元気を分けてくれ!!今の時代でスーパーロボットの物語を続けよう!!

世界最高のロボットゲーム『Mecha Force -メカフォース-』を作りたい!

▼『Mecha Force』クラウドファンディングページはこちら

https://camp-fire.jp/projects/view/760435